「水槽の『立ち上げ』って難しそう…」
美しい水景に憧れてアクアリウムを始めようとしても、最初の「立ち上げ」というステップで不安を感じる方は少なくありません。特に「水作り」という言葉は、初心者がつまずきやすい最初の壁です。
しかし、ご安心ください。アクアリウムの立ち上げは、正しい手順と、なぜそれを行うのかという「理由」さえ理解すれば、決して難しくありません。むしろ、生物が住める環境を自分の手で作り上げる、アクアリウムで最もエキサイティングなプロセスの一つです。
この記事では、アクアリウムの専門メディアとして、水槽の立ち上げに必要なものから、魚をお迎えするまでの全手順、そして最も重要な「硝化サイクル」の仕組みまで、初心者の方にも分かりやすく徹底的に解説します。
この【完全版】ガイドを読み終える頃には、あなたは自信を持ってアクアリウムの第一歩を踏み出せるはずです。
アクアリウム立ち上げの全景と期間:魚を入れるまでどのくらい?
まず、アクアリウム立ち上げの全体像とタイムラインを把握しましょう。多くの方が誤解しがちなのですが、アクアリウムは「水槽をセットして、水を入れたらすぐに魚を入れられる」ものではありません。
魚が安全に暮らせる「水」ができるまで、最短でも2週間、通常は1ヶ月〜1ヶ月半ほどの期間が必要です。この「魚が住める水を作る期間」こそが、立ち上げの核心である「水作り」です。
立ち上げの大きな流れは以下の通りです。
アクアリウム立ち上げ タイムライン
- 1
【1日目】準備・設置・注水
必要な器具を揃え、水槽を設置し、水を入れる。 - 2
【2日目〜】水作り(硝化サイクル)
フィルターを稼働させ、バクテリアが育つのをひたすら待つ。最も重要な期間。 - 3
【2週間〜1ヶ月後】水質チェック
試験薬でアンモニア・亜硝酸が「ゼロ」であることを確認する。 - ✓
【完了】生体(魚)の導入
水合わせを慎重に行い、ついに魚をお迎え!
ステップ1:準備編 – 完璧なスタートを切るために必要なもの
水槽の立ち上げをスムーズに進めるため、まずは必要な器具と消耗品をすべて揃えましょう。買い忘れがあると、作業が中断してしまいます。
必須器具リスト
- 水槽:初心者の方は、水質が安定しやすい「60cm規格水槽(幅60×奥行30×高さ36cm)」が最もおすすめです。小さい水槽ほど水質管理が難しくなります。
- フィルター(ろ過装置):水をきれいにし、バクテリアの住処となります。外部式、上部式、投げ込み式、スポンジフィルターなど種類が豊富です。飼育する魚や水草に合わせて選びましょう。
- 水槽台:水を入れた60cm水槽の総重量は約70kgにもなります。必ず専用の水槽台を使用してください。
- ヒーター&サーモスタット:熱帯魚を飼う場合は必須です。水温を一定(通常25℃前後)に保ちます。
- 水温計:ヒーターの動作確認や日々の水温チェックに必要です。
- 照明(ライト):水草を育てる場合はもちろん、魚を美しく観賞するためにも必要です。
- 底床:水槽の底に敷く砂利、砂、またはソイル(土)です。水草水槽にはソイル、一般的な熱帯魚には砂利や砂がよく使われます。
必要な消耗品・その他
- カルキ抜き(中和剤):【最重要】日本の水道水に含まれる塩素(カルキ)は魚やバクテリアにとって猛毒です。水を入れる際に必ず使用します。
- バクテリア剤:水作りを促進する「硝化バクテリア」を添加するものです。必須ではありませんが、立ち上げ期間の短縮に役立ちます。
- 水草:立ち上げ初期から入れておくと、バクテリアの定着を助けたり、コケの予防になったりします。(※水草水槽の場合)
- レイアウト素材:流木や石など。水景をデザインするのに使います。
- 水換え用具:バケツ(アクアリウム専用)、プロホース(底床掃除と排水ができるホース)など。
- 水質試験薬:水作りが完了したかを確認するために必須です。「アンモニア(NH3/NH4)」「亜硝酸(NO2)」を測定できるものを用意しましょう。
ステップ2:設置編 – 水槽はどこに置く?失敗しない設置場所
水槽は一度設置して水を入れると、簡単に動かすことはできません。設置場所は非常に重要です。以下のポイントを必ず確認してください。
設置場所のチェックポイント
- 水平で頑丈な床:水槽は非常に重くなります。床が傾いていたり、強度が不足していたりする場所は避けてください。専用の水槽台を使いましょう。
- 直射日光が当たらない場所:窓際など直射日光が当たる場所は、コケ(藻類)が大量発生する最大の原因となります。必ず避けてください。
- コンセントが近い場所:フィルター、ヒーター、照明など、多くの器具が電源を必要とします。
- 水換えがしやすい場所:バケツで水を運ぶ動線を考慮し、水場から近すぎず遠すぎず、作業スペースが確保できる場所が理想です。
- 生活の邪魔にならない場所:人の往来が激しい場所は、魚がストレスを感じる可能性があります。
ステップ3:実践編 – 立ち上げ作業の全手順
いよいよ水槽を組み立てていきます。手順を追って、焦らず丁寧に行いましょう。
(1) 水槽と器具の洗浄
新品の水槽や器具にも、ホコリや油分が付着していることがあります。水槽やフィルター、底床(砂利や砂の場合)を水で軽く洗い流します。この時、洗剤は絶対に使用しないでください。
※ソイル(土)は栄養が溶け出してしまうため、洗わずにそのまま使用します。
(2) 水槽台と水槽の設置
決めた場所に水槽台を設置し、その上に水槽を置きます。この時、必ず水平器を使って、台と水槽が前後左右ともに水平になっていることを確認してください。
(3) 底床を敷き、器具を設置する
洗浄した底床を水槽に敷きます。水草水槽の場合は、手前を薄く、奥を厚く傾斜をつけると遠近感が出ます。
次に、フィルターの吸水口や排水口、ヒーター(この時点ではまだ電源を入れない)などを説明書通りに設置します。
(4) レイアウト素材・水草の配置
流木や石などのレイアウト素材(ハードスケープ)を配置します。その後、水草を植えていきます。水草は水を入れる前に植えた方が作業しやすいです。
(5) 注水とカルキ抜き
いよいよ水を入れます。底床が舞い上がらないよう、ビニール袋やお皿を底床の上に置き、その上からゆっくりと水を注ぎます。
水を入れたら、すぐに規定量のカルキ抜き(中和剤)を投入します。これを忘れると、この後の工程がすべて無駄になってしまいます。
(6) 器具の電源をON
水槽が水で満たされたら、フィルターの電源を入れ、水が正常に循環していることを確認します。ヒーターもこの時点で電源を入れ、設定温度(例:25℃)にします。
おめでとうございます!これで「水槽の設置」は完了です。
しかし、本当の「立ち上げ」はここから始まります。
ステップ4:水作り(最重要) – 魚が住める環境を作る「硝化サイクル」
水槽をセットしたばかりの水は、ただの「カルキを抜いた水道水」です。この状態の
水に魚を入れると、魚自身の排泄物(フンや尿)から出る猛毒の「アンモニア」によって、数日で死んでしまいます。
「水作り」とは、この猛毒のアンモニアを、毒性の低い物質に変えてくれる「バクテリア(硝化菌)」を水槽内(主にフィルターのろ材)に繁殖させる作業のことです。この生物ろ過の連鎖を「硝化サイクル」と呼びます。
危険な「硝化サイクル」を分かりやすく図解
硝化サイクルには、大きく分けて2種類のバクテリアが登場します。この流れを理解することが、立ち上げ成功の最大の鍵です。
【最重要】硝化サイクル(生物ろ過)の仕組み
【猛毒】
魚のフン・尿、餌の残りカスから発生
(ニトロソモナス等)が分解
【猛毒】
アンモニアが分解されて発生。これも猛毒。
(ニトロバクター等)が分解
【ほぼ無害】
最終産物。毒性は低いが、溜まりすぎると害になるため「水換え」で排出する。
「水作り」とは、この「バクテリアA」と「バクテリアB」が十分に繁殖するのを待つ期間のことです。
「水作り」の具体的な進め方
バクテリアは、エサである「アンモニア」がないと繁殖できません。水槽をセットしてフィルターを回しているだけでは、バクテリアは永遠に増えません。
- 市販のバクテリア剤を投入する:立ち上げ初期にバクテリア剤を投入することで、硝化サイクルのスタートを助けます。
- アンモニア源を投入する:
- パイロットフィッシュ法:丈夫な魚(アカヒレ、ゼブラダニオなど)を数匹だけ入れ、その魚が出すアンモニアをエサにバクテリアを増やす方法。ただし、魚には猛毒の中を生きてもらうことになるため、倫理的な観点から推奨されない場合もあります。
- フィッシュレスサイクル法(推奨):魚を入れずにアンモニアを添加する方法。アンモニア水(薬局で販売)を数滴垂らすか、魚の餌を少量パラパラと入れて腐敗させ、アンモニア源とします。
- ひたすら待つ:フィルターは24時間絶対に止めず、バクテリアが増えるのを待ちます。この間、水が白く濁ることがありますが、バクテリアが繁殖している証拠(バクテリアブルーム)なので、水換えはせずに我慢します。
水作り完了のサインは?
水作りが完了したかどうかは、見た目では分かりません。必ず「水質試験薬」を使います。
立ち上げから2〜3週間が経過したら、試験薬で「アンモニア(NH3)」と「亜硝酸(NO2)」の数値を測ってください。
アンモニア(NH3)と亜硝酸(NO2)の両方が「ゼロ(検出されない)」になれば、硝化サイクルが完成したサインです。いよいよ魚をお迎えできます!
ステップ5:生体の導入 – いよいよ魚をお迎え!
水作りが完了したら、ついに魚を水槽に迎えます。しかし、ここで焦ってはいけません。買ってきた魚をそのまま水槽にドボンと入れるのは絶対にNGです。
お店の水と自宅の水槽の水は、「水温」と「水質(pHなど)」が異なります。この違いによるショック(pHショック)を防ぐため、「水合わせ」という作業が必須です。
焦りは禁物!「水合わせ」の全手順
「水合わせ」には、点滴法などもありますが、ここでは最も簡単な「袋を使った水合わせ」を紹介します。
- 水温合わせ(約30分):買ってきた魚の袋を開けずに、そのまま水槽に30分ほど浮かべます。これで袋の中の水温と水槽の水温が同じになります。
- 水質合わせ(約1時間):
- 袋を開け、袋の水を1/3ほど捨てます。
- 水槽の水を、捨てた量と同じくらい袋にゆっくりと入れます。
- そのまま15〜20分待ちます。
- (a)〜(c)の工程を、あと2〜3回繰り返します。
(※これにより、袋の中の水が徐々に水槽の水質に近づいていき、魚の負担を減らせます)
- 魚の投入:水合わせが終わったら、魚だけを網ですくい、水槽にそっと放します。この時、袋の中の水(お店の水)は病原菌などが入っている可能性があるため、水槽に絶対に入れないでください。
最初の魚は何匹入れる?
水作りが完了したとはいえ、バクテリアの数はまだ万全ではありません。最初からたくさんの魚を入れると、アンモニアの発生量にバクテリアの処理が追いつかず、水質が急激に悪化(アンモニア中毒)してしまいます。
最初の魚は、水槽のサイズに対して少なめ(例:60cm水槽なら5〜6匹程度)からスタートし、水槽の様子を見ながら1〜2週間かけて徐々に増やしていくのが失敗しないコツです。
アクアリウム立ち上げでよくある失敗とQ&A
最後に、アクアリウムの立ち上げ期によくあるトラブルとその対処法をまとめます。
- Q1. 立ち上げ中に水が白く濁ってきた
- A. 「バクテリアブルーム」と呼ばれる現象である可能性が高いです。これは、硝化サイクルが完成する過程で、特定のバクテリアが一時的に大増殖している状態です。硝化サイクルが安定すれば自然と透明に戻ります。焦って水換えをすると、せっかく増え始めたバクテリアを捨ててしまい、立ち上げが遅れます。フィルターを止めずに我慢して待ちましょう。
- Q2. すぐにコケ(藻類)が生えてきた
- A. 立ち上げ初期は、水草の成長が遅く、水中の栄養分が余りがち(富栄養化)なため、コケが生えやすい時期です。
- 照明の点灯時間を確認してください(最初は1日6〜8時間程度)。
- 設置場所が直射日光に当たっていませんか?
- コケ取り生体(ヤマトヌマエビ、オトシンクルスなど)の導入を検討します(ただし、水作り完了後に)。
- Q3. 水作り完了サインが出たのに、魚を入れたら死んでしまった
- A. 原因として最も可能性が高いのは以下の2つです。
- 水合わせの失敗:水温・水質合わせが不十分で、魚がショックを起こした可能性があります。
- 過密飼育:一度に大量の魚を入れたため、アンモニアの処理が追いつかなくなった。
もう一度、水合わせの手順と、導入する魚の数を見直してみてください。
- Q4. 水草水槽の立ち上げは違う?
- A. 基本的な「硝化サイクル」の流れは同じです。ただし、底床に「ソイル」を使用する場合、ソイル自体から立ち上げ初期に大量のアンモニアが放出されます。このため、フィッシュレスサイクル(アンモニア源の添加)を行わなくても水作りが進みますが、アンモニア濃度が非常に高くなるため、パイロットフィッシュの導入は絶対にできません。水質試験薬でアンモニアと亜硝酸がゼロになるまで、じっくり待つ必要があります。
まとめ:焦らずじっくりがアクアリウム立ち上げ成功の鍵
アクアリウムの立ち上げは、手順が多くて大変に思えるかもしれません。しかし、最も重要なポイントはたった一つです。
「目に見えないバクテリア(硝化菌)が育つのを、焦らずに待つこと」
魚が快適に暮らせる環境を自分の手で作り上げるプロセスは、アクアリウムの醍醐味です。この記事で解説した手順を一つ一つ丁寧に行えば、あなたも必ず美しいアクアリウムをスタートさせることができます。
焦らず、じっくりと、あなただけの水中世界を立ち上げてください!

